「雨音に気づいて遅く起きた朝は、まだベッドの中で
半分死んでいる」
清水 忠明
「ホット&ゴージャス“叶姉妹のように”」
昨年の暮れ、雪がちらつき始めたころ、田辺さんとキャンプに行きました。最近、田辺さんとのキャンプは装備を出来るだけシンプルにし、料理もどちらかと言うと「しょぼい」ことが多かったので、今回のキャンプは車で行き、装備も料理も充実することにしました。そこで今回のキャンプのコンセプトは「ホット&ゴージャス“叶姉妹のように”」とすることにしました。

まずはテントの選択です。今回は車で移動するため、インディアンテントのティピーを持って行くことにしました。このテントは6年前に3ヶ月かけて自作した自慢の品です。製作には、まず焼き鳥の串とチラシで模型を作り、さらに竹ひごと新聞紙で1/10モデルを製作し、検討を重ねました。最終的には5mの竹15本と時期はずれにスポーツ店のお兄ちゃんを脅し、格安で仕入れたターフ2枚を合わせて縫い、製作することにしました。ティピー本体は多少苦労しましたが、何とか製作できました。しかしその後、大変なことがありました。北海道では5mも長さがある竹はなかなか売っていません。この5mという長さは車の屋根に載せて運ぶ、最大の長さで最初から竹の長さは5mとしていろいろ計算しましたので、変更はできません。1ヶ月くらい探しましたが、なかなか見つかりません。ちょうどそのころ父親が九州の竹田という所に旅行に行き、イイ事を聞いてきました。その竹田と言う街は名前の通り竹の名産地で、年に何回かトラックに竹を積み、日本全国に竹を卸しているとの事でした。そして北海道には小樽と函館だけに竹を年に1回卸していることが分かりました。
早速、小樽の竹屋さんに電話をし、買いに行きました。そこのおじさんはとても良い人でした。「5mの竹?あるよ。で,何するの?」「えーインディアンのテントの柱にします」「何?面白い事するんだね。そんなことする奴は聞いたことないなぁ。ヨシ!安くしてやる。好きなの持っていきな」「ありがとうございます」しかし心配事がありました。竹の輸送費です。5mの竹15本ですから見当がつきません。「あの輸送費はどの位するものですか?」「ん?面白いから1000円で良いよ」「エ!」「もし折れたらいつでも言ってくれ」本当にいい人でした。
数日後、竹が送られてきました。早速,駐車場でティピーを張ってみました。その姿を見てぐっと来るものがありました。このときミシンの技を習得し、また三角関数も再び勉強しました。
このティピーの特徴は竹を除けば軽く、強度もあり、なんと言ってもテント内で火を炊くことが出来ることです。今回はコンセプトが「ホット&ゴージャス」ですから、ティピーに薪ストーブを組み合わせることにしました。ティピーの中で火を炊いたことはありますが、薪ストーブは初めてなのでテントが焼けるかもしれませんが、焼けたら、焼けたで考えればいいと言うことで,薪ストーブと煙突4m強を買うことにしました。ともかくこれでコンセプトの一つホットの方は何とかなりそうです。
またコンセプトのもう一つであるゴージャスについてはドラム缶風呂という案もありましたが、寒空の下、おっさん二人で震えながら風呂につかる姿を想像すると、ゴージャスというより何か惨めな感じがしますので、今回はやめて料理と酒に力を注ぐことにしました。とにかく酒類はビール、日本酒、焼酎、ワイン、バーボンと各種用意することにしました。また食事は常夜鍋に貝殻つきの蒸しカキ、薄切りタコのあぶり焼き、イカ、カレイの一夜干し、焼きオニギリさらに食後のフルーツと言うことになりました。
“叶姉妹のように”は一応田辺さんと私ですから,もちろん・・OK!という事で・・・
キャンプ地には支笏湖の美笛に行くことにしました。美笛はロケーションが素晴らしいですが、春から秋まで非常に混んでいるのでなかなか行けません。しかしこの時期だと多分キャンプしている奴など居ないだろうと言うことで決定しました。
「一夜を共にしてイイのかなぁ?」
昼過ぎ、田辺さんが走行距離10万q強のワンボックスカーで迎えに来ました。やる気満々です。ただでさい太っているのに、寒さ対策のため,かなり服を重ね着しています。ティピーの骨組みの竹を屋根に取り付け,装備を大急ぎで車に運び込み出発しました。竹は長さが5m30cm位ありますので、道路交通法上は多分違反だと思うのですが、何せ久しぶりのキャンプだし、おっさん二人、多少くたびれては居ますが、税金もちゃんと払っていますし、食い逃げ、ノゾキ等の犯罪にも手を染めていないので、目をつぶって貰うことにして出発しました。
ところが支笏湖道路に入る手前にお巡りさんが居ました。とりあえず笑顔で会釈して支笏湖道路に入りました。ゲー!また霊園の前にお巡りさんが居ました。今度は目を合わせないように、素早く通り過ぎました。ギャ!第2霊園の入り口にもパトカーが止まって居ます。「アレ?やばくないですか?」田辺さんの顔が引きつっています。「大丈夫だろ。多分。でもとりあえず歯を見せて笑いながら、ご苦労様て顔で通り過ぎようぜ」無事通り過ぎました。
支笏湖が見えてきました。樽前山や恵庭岳にうっすらと雪が積もり支笏湖は恐ろしいくらい美しいです。車の中では田辺さんは服を重ね着しているため「暑い暑い」と騒いでいます。
天気予報によりますと,天気は曇りでこれからメチャクチャ荒れてくるそうですが、まぁ「ホット&ゴージャス“叶姉妹のように”」ですから何とかなるでしょう。美笛の入り口に来ました。車が2〜3台止まっています。釣り人です。きっと「少なくともお前達だけには言われたくない」言うでしょうが、このクソ寒い中バカな奴らです。美笛の入り口はゲートが閉まっていました。「何とかなりませんかね」「チョット見てみようぜ」鎖も鍵もしっかりと閉まっています。迂回路もありません。「ダメだね。しょうがないからモーラップに行こう」「この季節モーラップでキャンプ出来ますか?怒られるんじゃないですか」「この季節だもの怒る奴も居ないでしょう」と言うことで来た道をトボトボ戻りました。
数キロ進んだときに、以前、前を走っていた車が急に曲がり支笏湖側に降りていったことを思い出しました。「田辺さん、支笏湖に下りていける道この先にあるから、行ってみようぜ」「大丈夫ですか」「まぁ行ってみよう」道がありました。多少不安なので、車を降りて見てくることにしました。「大丈夫。何とか行けそうだ」降りていくと、結構広い所がありました。またバカな釣り人も数人居ました。さらに車を進めていくとなかなかティピーを張るには良さそうなところありました。「ここイイんじゃない」「そうだね」早速、ティピーを張ることにしました。田辺さんはその前にビールを飲まないと,力が出ないと言うので、とりあえずビールで乾杯です。竹を組みティピーを広げていると釣り人オヤジが近づいて来ました。「へへへ何か面白そうだね」「ええ。今日ここで寝ようと思って」「へ〜この寒い中、物好きだね〜」バカヤロ〜。湖に叩き込んでやろうと思いましたが、ひょっとすると釣った魚をくれるかもしれないので、グッとこらえヘラヘラ笑っていると「俺も釣れなくてね」「・・・」ばかオヤジを無視してティピーを張ることにしました。出来ました。見れば見るほど素晴らしいテントです。田辺さんが「いやぁ、先生よくこれ作りましたね。素晴らしい。先生なら立派な技工士になれるのに」「・・」このオヤジも無視して薪ストーブを組み立てることにしました。ティピーの生地が煙突に触れないように、針金で固定しました。完成です。またビールで乾杯です。ティピー内にベッドとテーブルを設置しました。いよいよ薪ストーブに点火です。最初少し煙が出ましたが、みるみる燃えていきます。ティピーの中が暖かくなってきました。外にでて見ると煙突からも煙が勢いよく出ています。その姿の美しさに見とれて思わず写真を取りました。田辺さんがティピーの中から何か叫んでいます。「先生、竹、燃えていませんか?」「エ?ア〜黒くなっている」慌てて竹の位置を調整しました。さらに煙突に近いティピーの布地にもアルミホイルを張りました。田辺さんが「これ意味あるんですか?」「う〜ん?」中はドンドン温度があがってきました。なかなかイイ感じです。ビールばっかり飲んでいてもしょうがないので、食事の準備にかかります。七輪にも炭をおこしました。普通のテントの中で七輪を炊くと「遠い世界に旅立つ」ことになりますが、ティピーは天井が高く入り口を開けると風通しがいいので平気です。外は少しづつ暗くなってきました。ランタンに火を灯しました。ますますイイ感じです。
常夜鍋の準備を始めました。この常夜鍋はコブだし汁に安い豚バラ肉とほうれん草を入れてポン酢で食べる鍋で、毎日、毎晩食べても飽きないと、古くから言い伝えられている鍋です。しかし私たちはすぐ飽きるのでコブだし汁1に日本酒2を入れさらにポン酢に一味唐辛子を「これでもか!」と入れて食します。食べ始めは酒のアルコールの湯気と唐辛子の辛味でむせながら食べることになりますが、酒と辛味とむせで一気に体が暖まる優れものの鍋です。さらに蒸ガキの準備をし、七厘に網を載せ薄切りタコのあぶり焼きを始めました。カキはもちろん美味しいですが、タコのあぶり焼き、これも美味しいものです。凍らせたタコの足をしゃぶしゃぶの肉のように薄く切り、炭で軽くあぶり、塩とコショウを混ぜたものを付けて食べます。イカ、カレイの一夜干しも網に載せました。薪ストーブの奥と煙突の根元は真っ赤になリ、ティピーの中は暑いくらいです。快適です。
一通り食べたので、外に出てみました。真っ暗です。雲の隙間から美しい星が輝いています。田辺さんが変なこと言い出しました。「先生、ここって戦争中に亡くなった兵隊さんが行進すると言われてる所じゃないですよね」「何それ?」「昔、何か聞いたような気がするんですよね」「へ〜・・」背筋が少し寒くなり、後ろを振り向かないようにティピーに戻りました。
暇なので田辺さんが坂田さんに電話しました。コンサドーレの結果を聞き、遊びにこないかと誘いましたが、高沢選手が何やらと分からないことを言っていますので、素早く切りました。いつもだと酒、食料、装備ともに寂しいため、この後は「坂田馬鹿野郎母出臍大悪口大会」に突入し2〜3時間は罵るのですが、今回は「ホット&ゴージャス“叶姉妹のように”」のコンセプト通り暖かく、酒大量、食料豊富のためどうでもイイことになりました。お腹も膨れ、酔いも回ってきました。相変わらずティピーの中は暖かく、幸せ一杯です。
用を足すためにまたまた外に出てみました。かなり冷えています。しかし空にはこぼれんばかりの星が輝いています。あまりの美しさに田辺さんを呼びました。「星見たほうがいいよ」「うぁ〜凄いですね」「ほんと俺たちだけで独り占めするには申し訳ないよ」兵隊さんの話は忘れましたが、よく考えたらここは風不死岳の麓、クマの巣であることに気が付きました。この時期はこの近辺の熊は冬眠しているでしょうし、冬眠していないとしても、白老台地にいるはずです。しかし酔っ払った頭で考えると、考えるほど不安になってきました。そこでチョットやばそうな所にラジオを置いて来ることにしました。頭にヘッドランプを付けナタを左手に持ち、右手にラジオを持ち、森の中に入っていきました。なぜかこの役はいつも私です。森の中は真っ暗です。後ろの方から田辺さんの声がします。「先生、もうその辺でイイじゃないですか」まだまだティピーの近くですから、無視して進みます。ティピーが見えなくなってきました。田辺さんが「恐ろしいから、早く帰ってきて〜」と叫んでいます。バカヤロ〜恐ろしいのは俺だ!と思いました。そしてあんなアホなおっさんと二人で一夜を過ごしても、イイのだろうかと思いました。もちろんそんなものは、いいんですけれど・・・さらに森の中に進み雨が降っても濡れない所にラジオを置き、帰ってきました。「先生、よく恐ろしくないですね」「ハハハァ、大丈夫だよ」本当はチョット怖く、ラジオを置いた後、オシッコをしてきました。
再びティピーに入り、宴会を続けます。ティピー内は相変わらず暖かいです。酔っ払う前に、薪ストーブで沸かしたお湯を、湯たんぽに入れました。ますます幸せな気持ちが二人を包みます。さらに酒を飲みます。田辺さんは熱燗をガンガン、これでもかぁ〜と飲んでいます。私はウィスキー善々(違ったかな?)のお湯割りに変えました。酒が進みます。お互い何を言っているか分からなくなってきたので、薪ストーブに入るだけ薪を入れ、眠ることにしました。−30℃まで耐えるシュラフにゴアテックスのカバー、それに湯たんぽ、横には真っ赤な薪ストーブ、幸せです。眠りにつきました。
「雨音に気づいて遅く起きた朝は、まだベッドの中で半分死んでいる」
明け方、田辺さんが何か言っています。よく見るとシュラフから出て、湯たんぽを枕にして寝ているため、「寒い寒い」と言っています。さらに薪ストーブに火をつけようとしています。しかしまだ寝ぼけているため、上手く火がつかないようです。まだ早いし、外も暗いので無視して眠ることにしました。朝7時ころ目が覚めました。田辺さんはまだ死んでいますが、お腹がすいたので、薪ストーブに火を入れ食事の準備をすることにしました。ティピーの外に出てみました。冷たい雨が強く降っています。昨日置いてきたラジオを見に行きました。昨日の夜はラジオからド演歌が流れていましたが、今日はおっさん二人が政治の話しをしています。素早く変えました。ユーミンの「12月の雨」という曲が流れてきました。おあつらえ向きです。思わず聞き入ってしまいました。

朝食は予定では胃にやさしい「お粥」の予定でしたが、汁物が欲しいので、インスタントラーメンを作ることにしました。田辺さんが起きてきました。田辺さんはいつもどこに行っても「技工士の朝は早い」と言ってだいたい5時頃、遅くても6時には起き、朝は皆に嫌われていますが、今日は珍しく遅いです。もう歳ですし,長くはないかもしれません。
薪ストーブの火力が上がってきました。外は強い雨ばかりでなく、強い風も出てきました。普通のテントだと雨の時には内側からテント本体に触ると濡れますが、ティピーは使っている生地がターフ用の生地で防水力が高く、傾斜が強いため、まったく濡れません。また風に対しても竹が少したわむ程度で、思っていたより平気です。中は暖かいし快適です。「インディアンの知恵なんですかね」「そうだね」ラジオを聞きながらラーメンを啜ります。田辺さんはビール飲み始めました。雨の音がさらに強くなってきました。中年おっさん二人のたわいもない話しが続きます。
お昼になったので、お粥を作り食べました。雨と風は相変わらず強いですが、ティピーの中は暑いくらいです。ティピーを解体し帰る準備をしなければいけないのですが、雨風が強いためティピーから出たくありません。しかしついに力尽きました。薪がなくなりました。雨が少し弱まってきたので、カッパを着て泣き泣きティピーから出てかたずける事にしました。湖の対岸の恵庭岳がかすんで見えます。キャンプの終わりです。
「先生、ティピーに薪ストーブ、いいですね」「本当だね。今度は雪が降ったら、体の弱い坂田さんも誘ってまたキャンプしようぜ」「楽しみですね」 坂田さん,聞いてるか!
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